大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所 平成6年(わ)1848号 判決

裁判所書記官

栗林榮秀

本店の所在地

横浜市中区本町六丁目五七番地

国際警備株式会社

右代表者代表取締役

田邊哲人

本籍及び住居

神奈川県横須賀市鷹取町一丁目一〇一番地

会社役員

田邊龍美

昭和一二年七月二〇日生

右の者らに対する各法人税違反被告事件について、当裁判所は、検察官岡俊介出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人国際警備株式会社を罰金三四〇〇万円に、被告人田邊龍美を懲役一年六月に処する。

被告人田邊龍美に対し、この裁判確定の日から三年間、右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人国際警備株式会社は、横浜市中区本町六丁目五七番地に本店を置き、警備の請負とその保障業務等の事業を営むもの、被告人田邊龍美は、同会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人田邊龍美は、同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空雑給を計上するなどの方法により所得を秘匿した上

第一  平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が五五〇八万八〇二九円(別紙(一)修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、同年五月三一日、神奈川県横浜市中区山下町三七番地九号所在の所轄横浜中税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三一六万四三四五円で、これに対する法人税額が六〇万三二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一九六一万五三〇〇円と右申告税額との差額一九〇一万二一〇〇円(別紙(四)ほ脱税額計算書参照)を免れ

第二  平成三年四月一日から平成四年三月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が一億五六五一万九八〇八円(別紙(二)修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、同年六月一日、神奈川県横浜市中区山下町三七番地九号所在の所轄横浜中税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が七三〇万六二三六円で、これに対する法人税額が一四八万八六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額五七三七万七六〇〇円と右申告税額との差額五五八八万九〇〇〇円(別紙(五)ほ脱税額計算書参照)を免れ

第三  平成四年四月一日から平成五年三月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が一億六六六四万八三七七円(別紙(三)修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、同年五月三一日、神奈川県横浜市中区山下町三七番地九号所在の所轄横浜中税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二四六四万一〇五四円で、これに対する法人税額が七六九万七〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額六〇九四万三三〇〇円と右申告税額との差額五三二五万二六〇〇円(別紙(六)ほ脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実について

一  被告人田邊龍美の当公判廷における供述

一  被告人国際警備株式会社代表者の当公判廷における供述

一  被告人田邊龍美の検察官に対する平成六年九月九日付け、同月一六日付け(二通)、同月二二日付け(二通)及び同月二六日付け(七通)各供述調書

一  証人江口かほる及び同今田正紀の当公判廷における各供述

一  江口かほる(五通、ただし平成六年九月二〇日付け七三丁のもの及び同日付け一〇四丁のものの各不同意部分を除く。)、丸岡竜一、田邊駿輔(二通)、田邊哲人(三通)、田邊士朗、田邊とひ江(二通)浅利正、中川和枝(二通)、松本彬及び武宮治則の検察官に対する各供述調書

一  横浜地方法務局登記官作成の登記謄本四通

一  押収してある「決算等綴Ⅱ試算表」と題するファイル一冊(平成七年押第一四一号の6)及び賞与関係資料一綴(同押号の10)

判示冒頭の事実について

一  被告人田邊龍美の検察官に対する平成六年九月二日付け供述調書二通

判示第一ないし第三の各事実について

一  大蔵事務官作成の「脱税額計算書説明資料(損益)」と題する書面

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(検2号証)

一  大蔵事務官作成の法人税額計算書(検5号証)

一  押収してある仮払金台帳一冊(平成七年押第一四一号の3)及び振替伝票綴二冊(同押号の4及び5)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(検3号証)

一  大蔵事務官作成の法人税額計算書(検6号証)

一  押収してある仮払金台帳一冊(平成七年押第一四一号の2)及び振替伝票綴一冊(同押号の7)

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(検4号証)

一  大蔵事務官作成の法人税額計算書(検7号証)

一  押収してある仮払金台帳一冊(平成七年押第一四一号の1)及び振替伝票綴二冊(同押号の8及び9)

(補足説明)

弁護人は、判示第一の事実につき、(1)同年度の収入除外金一二一〇万四一六〇円のうち、金一〇七八万六九六〇円は被告人国際警備株式会社の収入ではなく、日清警備株式会社の収入である旨、(2)減価償却費として金二四万四七三九円が認められるべきである旨、(3)役員報酬として金八三一万五九九三円が認められるべきである旨、判示第二の事実につき、(1)減価償却費として金二八万四六八五円が認められるべきである旨、(2)役員報酬として金七五一万八四八一円が認められるべきである旨、判示第三の事実につき、(1)減価償却費として金八〇万六一五一円が認められるべき旨、(2)役員報酬として金六七五万七〇〇五円が認められるべきである旨、また、判示第一及び第二のの事実に関する右各主張に基づき判示第二の事実の事業税認定額が金三九八万二五〇〇円に、判事第三の事実の事業税認定損が金一八一四万七一〇〇円になる旨主張するので、この点につき判示各事実を認定した理由を若干補足して説明する。

一  判示第一の事実の収入除外について

関係各証拠によれば、(1)平成元年、被告人国際警備株式会社は日清警備株式会社の株式の六〇パーセントを取得し傘下に入れたものの、日清警備株式会社代表取締役高瀬清が四〇パーセントの株式を保持していたため同人が日清警備株式会社の経営にあたってきたこと、(2)日清警備株式会社は大成建設株式会社及び株式会社ユニーと本件警備保障契約を締結し警備業務にあたってきたこと、(3)右高瀬が不動産取引に失敗し、また日清警備株式会社の経営にも行き詰まり被告人国際警備株式会社にも影響がでることを恐れた被告人田邊龍美が日清警備株式会社の営業を被告人国際警備株式会社に引き継ごうと右会社の従業員を日清警備株式会社に派遣したが結局成功しなかったこと、(4)日清警備株式会社は従業員の給料を遅配するようになり、平成二年一二月、経営に失敗した右高瀬が所在をくらませたため、被告人田邊龍美は日清警備株式会社の代表者印及び手形帳等を保管し、被告人国際警備株式会社従業員浅利正をして、右大成建設株式会社等日清警備株式会社の警備契約の相手方と日清警備株式会社の従業員である警備員の給料は被告人国際警備株式会社が支払うなどして警備業務が支障を来さないことを条件に、右警備契約を被告人国際警備株式会社が引き継ぎ、未払いの警備料及び今後の警備料を被告人国際警備株式会社に支払うこととする交渉にあたらせたこと、(5)警備契約の相手方は、被告人国際警備株式会社の口座への入金を拒否したことと日清警備株式会社の領収証を要求したことを除き被告人国際警備株式会社の求めに応じたこと、(6)平成三年三月には被告人国際警備株式会社は日清警備株式会社の業務を名実ともに完全に引き継いだこと、(7)その間の右警備契約に基づく警備業務を担当した警備員の給料は被告人国際警備株式会社が支払ったこと、(8)その際の領収証は右大成建設株式会社等相手方の要求により契約名義人である日清警備株式会社名義で作成され交付されたこと、(9)被告人田邊龍美は、受領した警備料が被告人国際警備株式会社の収益であると認識して同人名義の口座に入金させていたことなどの事実が認めらる。右事実に徴すれば、平成二年一二月日清警備株式会社代表取締役高瀬清が所在をくらまして以降は、右会社は法人税法一一条にいう単なる名義人であって右警備料を享受しない法人であり、これを享受したのは被告人国際警備株式会社であって、右警備料は被告人国際警備株式会社の収益と認められるのが相当である。

二  判示各事実の減価償却について

法人税法三一条は、法人資産の減価償却費の損金算入について、法人自ら決算においてこれを経費として処理していることを必要としているところ、関係各証拠によれば、帳簿に備品としての記載はもとより、本件各年度の決算において右経費として処理されていないことが認められ、してみると弁護人指摘の美術品が被告人国際警備株式会社に属するか否かを論ずるまでもなく、減価償却費として損金算入できないものと判断した。

三  判示各事実の役員報酬について

関係各証拠によれば、(1)平成元年被告人国際警備株式会社の増資の際、被告人国際警備株式会社の役員五名(被告人田邊龍美、同被告人の実弟三名及び同被告人の妻)が出資金に充てるため銀行から金員を借り入れたこと、被告人国際警備株式会社が仮払金処理によりその返済を行ってきたこと、(3)右各役員が右返済を役員報酬として認識していなかったこと、(4)右役員五名は右返済とは別に、定期に相当額の役員報酬及び賞与を受領していたことなどの事実が認められ、そもそも役員報酬が法人の損金に算入されるのは取締役の職務執行の対価として支払われ、かつその支払が完全に義務づけられているからであると解されるところ、右各事実に徴すれば、弁護人指摘の本件銀行への返済が損金に算入される取締役の職務執行の対価である役員報酬に当たらないことは明らかである。

以上のとおり、弁護人の前記各主張はいずれも採用できない。

(法令の適用)

被告人田邊龍美の判示各所為はいずれも被告人国際警備株式会社の業務に関してなされたものであるから、被告人国際警備株式会社については法人税法一六四条一項により同法一五九条一項の罰金刑に処すべきところ、以上は平成七年法律第九一号「刑法の一部を改正する法律」附則二条一項本文により同法律による改正前の刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算した金額の範囲内で被告人国際警備株式会社を罰金三四〇〇万円に処し、被告人田邊龍美の判示各所為はいずれも法人税法一五九条一項に該当するところ、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は右改正前の刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役一年六月に処し、被告人田邊龍美に対し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条により被告人両名に連帯して負担させることとする。

(検察官求刑、被告人国際警備株式会社罰金四〇〇〇万円、被告人田邊龍美懲役一年六月)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 山本武久)

別紙(一) 修正損益計算書

〈省略〉

修正損益計算書

〈省略〉

別紙(二) 修正損益計算書

〈省略〉

修正損益計算書

〈省略〉

別紙(三) 修正損益計算書

〈省略〉

修正損益計算書

〈省略〉

別紙(四)

〈省略〉

別紙(五)

〈省略〉

別紙(六)

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例